ざっくり言うと
「デグーが糖尿病になりやすい」って、実はウソだった!?
デグー研究に関する最新の論文をまとめてみました
今回は、デグーの嗜好性と血糖値に関する、興味深い論文を発見したのでご紹介します。今回ご紹介する論文は、東京農工大学農学部付属広域都市圏フィールドサイエンス教育研究センターの前川先生、鈴木先生の共著による論文「デグーの高嗜好性食物の検討と食後血糖値への影響」というものです。2017年に「ペット栄養学会誌」に掲載されているものなので、比較的新しい論文になります。
私なりに簡単に解釈して、論文を発表された方に敬意を払い、以下に掲載いたします。皆さんにもわかりやすいように少し要約した形になりますが、よかったらお読みください。
今回の論文は、「デグーはおやつの種類(一般的な食事「ペレット」、繊維質の多い「チモシー」、糖質の多い「乾燥パイン」、脂質の多い「ひまわりの種」)によって、嗜好性の差に変化は生まれるのか?生まれるとしたら、どのように変化が生まれるのであろうか?&デグーの血糖値の変化は、それらのエサを食べると、それぞれ、どのように変化するのであろうか?」というものです。
デグーは糖を摂取できない、とはよく言われていましたが、それは本当のことでしょうか?実際に実験をしてこのように論文として発表されていますので、デグーを飼育されている方は、ぜひ読んでみると良いと思います。
実際の論文を見たい場合は、こちらを御覧ください。
緒言(はじめに)
デグーについて、前提知識として、このように書かれています。
- デグーは昼行性でよくなつく動物、さらに賢い動物なので、国内でペットとして人気になっていっている動物である
- 野生下では、草本や低木の生えた粗食環境に生息するため、栄養価の高い食事で長期間飼育すると糖尿病や脂質異常症になることが知られており、エサが原因で病気になることが心配されている
- よって、デグーは一般的にペレットで飼育することが望ましいとされている。ただ、デグーと飼い主の仲を深めるために、ときどき嗜好性の高い「おやつ」を与えていることが多い
- だけど、実際におやつの嗜好性とか、おやつ食べた後に血糖値がどれくらい変わるか、について誰も調べてないよね?だから私が調べちゃいます!
(((前川さん、鈴木さん、すごい……!!!)))
そして本論文の実験内容としては、以下のようなことを検討しています
- 一般的な食事「ペレット」、繊維質の多い「チモシー」、糖質の多い「乾燥パイン」、脂質の多い「ひまわりの種」を与えてみると、デグーはどれが好きであるか?
- それらを食べた後のデグーの血糖値は、どのように変化するか?
- 結局、これらのエサは、デグーとコミュニケーションを取るために時々与えてもよいのか?
材料および方法
実験対象のデグー&飼育環境
今回の実験の対象となるデグーは、以下の通りです
- 健康なデグー(3歳〜4歳)
- 去勢(子供をつくれない)したオス3匹
- メス3匹
- 体重は206グラム〜247グラム(ちなみに我が家のさすけは210グラムくらいだったので同じくらい)
実験時以外の飼育環境は、以下の通りです
- ケージ(幅580mm×高さ1300mm×奥行き580mmまたは幅780mm×高さ500mm×奥行き570mm)
- ケージ内には、紙を細かく裁断した敷材を入れる
- ケージ内には、回し車、ステージも設置
- ケージ内には、2匹〜5匹の多頭飼い
- 水の摂取は自由
- 明るい時間帯と暗い時間帯は12時間ずつ(6時から18時は明るい状態)
- 室温は約24℃
- 湿度は自然状態(加湿器、除湿機などの使用なし)
実験の際のエサについて
今回の実験に用いるデグーには、以下のようなエサが使用されていました
通常食(RC4) | 高繊維食(オレゴンチモシー) | 高糖質食(もぎたてパイン) | 高脂肪食(大粒ひまわりの種) | |
粗たんぱく質(%) | 22.9 | 5.8 | 0 | 15.6 |
粗脂肪(%) | 2.2 | 1.4 | 0 | 28.1 |
粗繊維(%) | 15.9 | 24.3 | 1.5 | 28.3 |
粗灰分(%) | 8.7 | 5.8 | 0.6 | 2.7 |
水分(%) | 7.8 | 10.6 | 12.4 | 10.1 |
NFE(%) | 42.5 | 52.1 | 85.5 | 15.2 |
エネルギー(kcal/g) | 2.9 | 1.3 | 3.6 | 6.1 |
NFEは可用性無窒素物を示す。
- 実験には、一般的な食事「ペレット」、繊維質の多い「チモシー」、糖質の多い「乾燥パイン」、脂質の多い「ひまわりの種」を使用
- すべて市販されている製品
- ペレットは、アルファルファ、フスマ、脱脂大豆、トウモロコ シ等を主原料とした、可溶無窒素物(NFE)42.5%、エ ネルギー2.9kcal/gの草食齧歯類用食餌を使用(RC4、実験用ペレット)
- チモシーは、アラタ「オレゴンチモシー」を使用(NFE52.1%、エネルギー1.3kcal/g)
- 乾燥パインは、マルカン「もぎたてパイン」を使用(NFE85.5%、エネルギー3.6kcal/g)
- ひまわりの種は、マルカン「大粒ひまわりの種」を使用(NFE15.2%、エネルギー6.1kcal/g)
実験の手順について
実験は以下のような手順で行われました
- 実験に用いるデグー6匹すべてににおいて、あらかじめ2週間前に空腹時の血糖値を測定したあと、エサを与えた際に嗜好性の評価とエサを食べた後の血糖値の変化の観察を行った
- 理由:採血(血糖値を測定する為に必須)の刺激がエサの食べ具合に影響する可能性を除くため&短時間で採血を何度もしてしまうと血液量が少なくなってしまうので、それを防ぐため
- 今回の実験では、1匹のデグーにつき、「ペレット」「チモシー」「乾燥パイン」「ひまわりの種」の4種類のエサで実験を行った
- エサの嗜好性を見たり、採血をして血糖値を測定する時間帯は、デグーの活動する時間帯である8:00〜13:00に統一して実施した
嗜好性の評価と血糖値の測定
デグーの嗜好性の測定方法と、血糖値の測定方法については、以下のように行われました
- 実験の対象となるデグーを、多頭飼い用のケージから単頭飼いのケージ(幅450mm×高さ400mm×奥行450mm)に移して、単頭飼いに慣れさせるとともに絶食を開始。
- 単頭飼いのケージには、紙を細く裁断した敷料を入れて、回し車・ステージを設置
- 水は自由に飲むことが出来る
- 絶食が始まってから17時間後に、実験用のエサを入れた容器をケージ内に設置
- 食事を30分間自由に摂らせ、エサ設置直後の反応、エサへの執着心、その他の行動を目視で観察
- その後容器を回収し、設置前と設置後のエサの重量からエサを食べた量を算出し、嗜好性を測る
- 食事を回収した瞬間の時間を0分とし、30分後、90分後、150分後、210分後の計4回採血、血糖値測定を行った
結果
今回の実験の結果、以下のような結果が出ました
<嗜好性のテストの結果>
- 脂質の高い食事「ひまわりの種」が一番嗜好性が高かった
- 次に嗜好性が高かったのは、糖質の高い食事「乾燥パイン」である
- その次にチモシー、一番嗜好性の低い食事は、一般的な食事であるペレットであった
- エサの嗜好性の比較では、脂質の高い食事「ひまわりの種」とペレット、糖質の高い食事「乾燥パイン」とペレットの間には、はっきりとした差が生まれた
- エサ4種類をケージに設置したあと、デグーがすぐに近づいたエサは、脂質の高いひまわりの種と糖質の高い乾燥パインである。
- デグーは脂質の高いエサ(ひまわりの種)に対してとても執着が強く、30分以上食べ続けるデグーが多く見られた
- 糖質の高いエサ(乾燥パイン)は、しばらく食べた後、エサを口に食わえて、敷材の中に隠すような行動も見られた
- また、繊維質の「チモシー」は、散らかして興奮して動き回るような行動があった
- ペレットに関しては、あまり興味を示さず、時々陽気に近づいて食べていた
<血糖値のテストの結果>
- 17時間絶食した時の血糖値と、一般的な食事「ペレット」、繊維質の多い「チモシー」、糖質の多い「乾燥パイン」、脂質の多い「ひまわりの種」は、はっきりとした差がわかった
- デグーがペレットを食べた際の血糖値は90分でピーク値に達したが、150分で空腹時の値に戻った
- 糖質の一番多かった乾燥パインは、30分の間に、4種類のエサの中で一番大きいピーク値を出したが、90分で空腹時に戻った
- 高繊維のチモシーは、90分でピーク値を示し、150分で空腹時の値に戻った(ペレットと同じ結果)
- 脂質の大きいひまわりの種は、大きな変動がなく、30分の間で実験に使用した4つのエサの中で値が最も低いピーク値を示した
- これらを踏まえた食後の血糖値変化量は、高糖質食の乾燥パイン、高繊維質職のチモシー、通常食のペレット、そして高脂質職のひまわりの種の順番に高かった。
考察
この論文著者は、今回の実験を振り返って、以下のような考察を述べています(要約)
デグー用のおやつは、デグーと飼い主がコミュニケーションを取るために使用されている
- <嗜好性の実験考察>
- デグーのおやつの嗜好性に関しては、今回の実験で高い嗜好性が示された
- 絶食による空腹時で一番執着の強いエサは、脂質の高いひまわりの種である。その次に糖質の高い乾燥パインである。この2種類は通常の食事(ペレット)と比較するとはっきりとした差が生まれた
- 糖質の高い乾燥パインが、脂質の高いひまわりの種(30分間食べ続けていた)のように時間内に食べ続ける行動が見られなかったのは乾燥パインに含まれる高いNFE含量が速やかに血糖値を上昇させ、満腹中枢に働いたためと考えられる
- 高繊維食として与えられたチモシーは、ペレットと比較して摂取量にはっきりとした差は観測されなかったが、嗜好性の高さによると推測される興奮行動がみられた
<血糖値の実験考察>
- 食後血糖値測定では、NFE含有量に応じた変動がみられ、デグーは他の草食動物と同様にNFEを消化・吸収・ 利用できると考えられた。
- 高糖質食では、血糖値がピークに達する時間やその値から摂取後すぐに糖質が血中に入り代謝されたと推測され、他の哺乳類同様、デグーにおいても糖質は早急にエネルギー源として利用可能であり、糖質の高い乾燥パインのような食事が栄養補給として有用なエサであることが示唆された。
- 高繊維質食およびアルファルファが主原料に含まれる通常食では、繊維質のグルコース吸収遅延の作用によって90分でピーク値に達したと考えられる。
- このように3種類の食餌では空腹時-ピーク時の値で有 意差を検出する血糖値変動がみられたものの、食後変化量ではどの食餌も通常食と比較して有意差が検出されなかった。
- このことは、これらの血糖値変動がおおむね生理的変動の範囲内にあり、直ちに健康に悪影響を及ぼす可能性が低いことを示唆している。
- また、高脂質食においては、摂食量が最も大きかったにも関わらずほとんど血糖値変動を示さなかった。これは食餌のNFE含有量の少なさや、脂質がエネルギー源として蓄積される特徴が要因と考えられる。
- デグーにとって長期的な高栄養食摂取は、代謝系疾患の発症につながるため、決して望ましいことではない。栄養成分に表示されているとおり、特に嗜好性の高い高 脂質食・高糖質食は単位重量あたりのカロリーも高く、 長期的な常時給与は太り過ぎなどに注意が必要である。
- しかし、デグーのペットとしての人気拡大に伴い、人へ の親和性の向上を目的として通常食以外の食餌が利用さ れる可能性がある。本研究は、このような散発的・一時的なおやつのような給餌を想定して行われ、そのような 給餌は、健康に直ちに悪影響を及ぼす可能性は低いこと を示唆したものである。
筆者まとめ
皆さん、今回の論文を見てみて、どのようにお考えになったでしょうか?
嗜好性の実験においては、皆さんも普段飼育していたら感じていたかもしれませんが、やはり糖質、脂質のあるものほど嗜好性が見られることがわかりました。ただ、この実験がいままでされていなかった、ということは知りませんでした。
血糖値の変化においては、脂質の高いエサも、糖質の高いエサも、時間が経てば通常時に戻る、という点は正直、驚きました。また、脂質の高いエサに関してはそもそも血糖値の上昇が殆ど見られないことにもびっくりです。
今回の実験結果を見てみて、「デグーは全く糖を摂取できない」と過剰に信じ込む必要は無いのだと思いました。また、論文筆者も「高糖質食が栄養補給として有用な食餌であることが示唆された。」と書いてある通り、デグーにとって糖が完全悪、というわけではないみたいです。
ただし、今回の論文の考察に書いてあるとおり、糖質、脂質の高い食事は、一時的なおやつを想定されているもので、長期的に常食として与え続けることは、太りすぎや代謝系疾患の発症につながるため、望ましいことではない、とも書かれています。
この論文を読んだ皆さんがこれからデグーの餌やりにどのような影響をあたえるかはわかりませんが、みなさんが思っているほど、糖に過剰になる必要はないみたいです。
逆に、「糖質の与えなさすぎによる『低血糖』」のほうが注意したほうが良いかもしれませんね。
追記:
今回の記事ですが、Twitterにて多くの皆さんに拡散、意見の交換をして頂いております。予想外の反響の大きさに、私も驚いております
「デグーに乾燥パイン・ひまわりの種をあげても大丈夫なのか?」実験結果の論文を見つけたのでまとめてみました。
世間的に言われている、デグーの糖への「絶対悪」という考えは改めるべきかもしれません。。。。。。https://t.co/EtwN8vZ1J6— さすけ(デグーの総合情報サイト) (@degu_sasuke) 2017年11月26日
私が個人的に感じてきた、皆さんのデグーの「糖」に関する認識ですが、
デグーに糖質は絶対的に悪である。絶対に与えてはいけない
という意見が多かったように感じておりましたが、今回の記事を公表して皆さんの感想を拝見させていただいた所、
- これからは食事にもっと彩を与えたい
- 低血糖になってしまうくらいなら、乾燥パインをあげておけばよかった
- それぞれのデグーに応じて適切な量を与えることが大切
といったような、柔軟的な考えを持つデグー飼いの皆さんの声が多く聞こえたので、それについてはよかったかな、と思っております
しかし、やはり糖を与えることに抵抗を持つ方ももちろんいることも確かで、糖を与えすぎることで、虫歯になるリスクもあるし、デグーの個体によっては、少量で急性糖尿病になったりする可能性もあるため、これまで通り糖を与えることはないであろう、という意見の方も見られました。
今回の論文はあくまでも一研究者の発表の一つにしか過ぎず、デグーの生態についてはいまだ研究を継続的に行っており、明らかになっていない部分がたくさんあります。
ですので、あなたの家庭にいるデグーが健康的にいるためには、長生きしたデグーを飼育している方の意見が強く参考になると思います。
デグーを長く飼育されている方がいらっしゃいましたら、情報提供をいただけると幸いに思います。
1.どのような食生活をしているか?
2.おやつは与えているか?与えていないか?
3.長生きの主な要因となっているものはなんだと思うか?
などについて、よければこちらのコメント欄(承認制になってます)またはTwitter、Instagramのコメント欄にてご意見をいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
今回ご紹介した論文はこちら
今回ご紹介した論文の原文はネットで公開されており、こちらからお読みいただくことができます。デグーを飼育している方は、ぜひ読んでみてください。
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